お祖父さんが積み木のようなものでリハビリしている写真

突然の病の発症などにより身体の一部機能が正常に動かなくなった場合、「作業療法をしましょう」と医師から言われることがあります。作業療法と言うと、豆をお箸でつまんだり、歌を歌ったりする場面を思い浮かべる人もいらっしゃるでしょう。実際、病気などを経験した後の生活に「リハビリテーション」はとても大きく影響します。

その中で「作業療法士」がおこなうリハビリテーションは、患者さん個々人の生活、人生に密着したものです。こちらの記事では、作業療法とそのリハビリテーションについて詳しくお伝えします。

作業療法と理学療法の違い

作業療法、理学療法ともに「リハビリテーション」という括りで受け取られ、その詳細についてはよくご存じない人も多いのではないでしょうか?作業療法がどのような療法なのかに加え、作業療法と理学療法の違いについて述べます。

作業療法とは

作業療法とは、身体や精神に障害を負われた人、またはそれが予測される人を対象に、日常生活における作業を通して、心身ともにその機能を回復、維持、強化すると同時に、心の充実感、幸福感を大切にした療法です。

作業療法の「作業」とは、個人の特性(どんな生活をしているか、どんなことが好きか、どんな仕事に従事しているかなど)に沿うとともに、現在の症状を診て決められたリハビリテーションのことです。

作業療法の具体的内容

作業療法は、大きく分けて4つに分けられます。手指が動きにくくなった女性のケースで見ていきましょう。

1.検査をして評価し、日常の作業ができるように障害の軽減を目指す

ここでの評価とは、作業療法士がその人の状態を検査し、目標を決める指針となるものです。その目標をもとに、手指の筋力の回復と少しでも滑らかで細かい動きを目指して、リハビリテーションをおこないます。

2.日常的な基本動作の練習

患者さんの病状に合わせて、家事(料理、洗濯、掃除など)のトレーニングをしたり、お風呂の入り方などをレクチャーしたりします。住宅の改修などの相談にのるのも、作業療法士の仕事です。

3.心を支える

手芸、工芸、さらには将棋や園芸など趣味の領域までリハビリテーションをおこなう病院もあります。これらは手指を動かすトレーニングになるだけでなく、ストレスの軽減にもなります。また、認知症の予防や前向きな気持ちを引き出すなど多くの効果が期待できます。

4.「福祉用具」の提案や「自助具」の作成、提案

このケースで見ると、どのような握り方でも食べ物をつまめるお箸などを提案される可能性があります。似た職業に「福祉用具専門相談員」がありますが、作業療法士の資格を取得した時点で福祉用具専門相談員も兼ねています。

自助具とは、福祉用具の一種で、さらに個別性を追求したものです。用具を用いる人の障害度合いに合わせて作業療法士が福祉用具を改良したり、新たに作成したりすることもあります。

理学療法との違い

理学療法が身体の機能の回復、低下防止に特化したリハビリテーションをするのに対して、作業療法のリハビリテーションの視点は、「患者=生活者」です。患者さん一人一人の生活、心に占めているもの、従事している仕事に沿ったリハビリテーションをおこないます。したがって、日常生活における動作をできる限り可能にするリハビリテーションや趣味領域のリハビリテーションも作業療法になります。

足を怪我した人を例に挙げれば、可動域を広げる訓練や平行棒での歩行訓練などが理学療法、布団からの起き方、掃除機のかけ方の練習などが作業療法です。

作業療法では、福祉用具の提案などをおこないますが、理学療法では、身体に装着する装具(一例:コルセット)を使ってのリハビリテーションなどをおこなうのも違いの一つです。

しかし、理学療法、作業療法ともに、よりスムーズな日常生活を目指していることは同じといえます。

作業療法をおこなう際の注意点

切り絵をしている写真

それでは、作業療法をおこなうえで見守る側は、何に気をつけて患者さんを応援するべきなのでしょうか?

適度な難易度のトレーニング

勉強も簡単すぎても難しすぎても続かないように、リハビリテーションも継続するにはその人に合った難易度でないといけません。簡単だと飽きてしまいますし、まったくできないと負の感情が湧いてくるからです。作業療法士とコミュニケーションを欠かさず、本人の「難しすぎて辛い」など率直な思いを聞くことが大切です。

無理強いをさせない

無理強いをされると、好きなことも嫌いになる人は多いです。したがって、リハビリテーションも本人に能動的に受けてもらうことが大切です。周囲の人は本人の気持ちを尊重し、前向きな気持ちを持ち続けられるようにサポートしましょう。

そして、リハビリテーション(トレーニング)を拒否する場合は、体調面が優れないこともあります。きちんと本人とコミュニケーションをとって、体調面にも配慮してください。

過剰な期待を持たない

身体の自由がきかないことだけでもショックなうえに、今までできていたことができないのは辛いことです。ましてや慢性期で入院期間が長く、改善されたと実感できない場合は余計に後ろ向きになりやすいです。

用意されたトレーニングがうまくいかないことは、さらに後ろ向きの気持ちに拍車をかけます。将来への不安を増大させ、絶望感まで抱く人もいらっしゃるかもしれません。安易に周囲の人が抱く「これぐらいできるでしょう?」「これをすればもっと良くなるのでは?」という過剰な期待は、患者さん本人を追い込むことがあるので禁物です。

作業療法でリハビリテーションを受けた方の事例を紹介

・70代女性/交通事故に遭い作業療法を受けた事例

66歳の時に交通事故にあったのですが遭いました。オートバイを運転していたのですが、自動車と接触してしまいました。意識はあったものの両足ともにまったく動かず、救急車で運ばれてそのまま緊急手術となり、入院しました。

今までできたことが一人でできないと、入院中は気が滅入り、足も痛いし、精神的にも辛く愚痴ばかりこぼしていました。作業療法をすすめられても断ることもありました。しかし、作業療法士の方は、これから座る時間が多くなる生活が待っている私に「お尻が痛くならないよう、座りながらお尻をちょこっと片方ずつ持ち上げてくださいね」などと、私に合ったトレーニングを教えてくれ、諦めませんでした。車いすでの洗濯の仕方も、「足の間に荷物を抱えていくと良いですよ」と教えてくれました。素人考えですが、持ちやすいということの他に、足の筋肉を鍛える効果もあったのかな?と今では思います。

その他のリハビリテーションも相変わらず「辛いな」と思いながらやっていましたが、作業療法士の方の「もう少しです!」という励ましに励まされ、頑張れました。そして短距離ですが、杖を使用して初めて自力で歩いて外の空気を吸った時は、これからの生活を思い、「しっかりしなければならない」と自分を奮い立たせたことを覚えています。

気が滅入ると簡単なリハビリテーションも辛いものですが、そのような時、私は脳梗塞の後遺症で手指が動かしにくい女性のちぎり絵の手伝いを頼まれました。一生懸命リハビリテーションを受けているその女性を見て感じたことがあり、温かい気持ちになりました。その脳梗塞の女性が作ったちぎり絵は今でも居間に飾ってあります。私は理学療法も作業療法も受けましたが、作業療法が「生活に根差した身体と心のリハビリテーション」ということを、この体験を思い出して納得しています。

まとめ

作業療法では、身体の機能の回復などを目指すだけでなく、生活者として患者を診てリハビリテーションの内容を決められます。リハビリテーションの内容も、個々人の生活、人生を大切に考え、必要だと判断されたトレーニングです。リハビリテーションの事例から読み取れるように「生活に根差した身体と心のリハビリテーション」、それが作業療法なのです。