遺贈の相続税の計算法は?死因贈与との違いも解説
遺贈とは、遺言によって相続人、もしくは相続人以外の人に財産を譲る行為です。法定相続人にしか譲れない「相続」とは異なり、遺贈は誰にでも財産を譲ることができるため、非常に便利な仕組みだといえるでしょう。しかし、遺贈の場合でも相続税がかかるほか、計算方法も相続の場合と異なるため、事前にしっかりと仕組みを理解しておく必要があります。
そこで本記事では、遺贈の種類や相続税の計算方法、死因贈与との違いについて解説します。
遺贈の種類について
遺贈には大きく「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があり、それぞれ遺贈の仕方が異なります。
包括遺贈
包括遺贈とは、「相続財産のうち〇割をAさんに遺贈する」といったように、相続財産の一定の割合を指定して遺贈する方法をいいます。基本的に、受遺者は相続人と同等の権利義務を負うことになるため、万が一遺言者にマイナスの財産があった場合は、そのマイナスとなる財産も引き受ける必要があります。
特定遺贈
特定遺贈とは、「東京都港区〇丁目の土地をAさんに遺贈する」といったように、財産を指定して遺贈する方法をいいます。包括遺贈と違い、特に指定がなければ遺言者のマイナスとなる財産を引き継ぐ必要はありません。
しかし、特定遺贈の場合は相続人と揉める可能性が高いのも事実です。
たとえば、相続人は「いずれは自分が相続する」と思っていた財産が、遺言で第三者へ遺贈されることになったとしましょう。この場合、分けられる財産であれば良いのですが、不動産となると共有、もしくは売却資金を分けるといった方法になるため、遺言者の思い通りにならないことも多々あるのです。
遺贈による相続税計算の注意点
遺贈によって財産を受け取ると、受遺者には相続税がかかります。しかし、遺贈の場合は一般的な相続税と計算方法が異なるため注意が必要です。ここでは、遺贈による相続税の計算方法について見ていきましょう。
法定相続人以外は基礎控除の相続人人数には含まない
遺贈にかかる相続税を計算する場合は、遺贈された財産だけではなく、遺言者が保有していた全ての財産を合計して計算する必要があります。
また、相続税では基礎控除として法定相続人の人数が含まれますが、第三者が遺贈を受ける場合は法定相続人に含まれません。
<相続税の基礎控除>
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
<相続税の控除額>
取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
たとえば、遺言者に5,000万円の財産があり、そのうち4,000万円を実の娘Aさんに、1,000万円を第三者のBさんに遺贈するとしましょう。
その場合、Aさんの基礎控除は「3,000万円 + 600万円 ×1 = 3,600万円」となり、総額財産5,000万円 – 基礎控除3,600万円 で課税対象が1,400万円、控除額が50万円になります。
また、相続税の総額は1,400万円×0.15%-50万円で160万円です。
しかし、5,000万円の財産は「Aさん4:Bさん1」の割合で分けられたため、相続税も同じように割り振られます。よって、相続税の金額はAさんが128万円、Bさんが32万円という計算になります。
法定相続人以外は2割加算される
財産の受遺者が被相続人の一親等の血族(親・子供)および配偶者、代襲相続人の孫以外である場合は、相続税が2割増しになります。つまり、第三者が遺贈を受ける際は、この2割増しが当てはまるのです。
そのため、先ほどのBさんの相続税は32万円ではなく2割増しの38万4,000円になります。
遺贈と死因贈与の税金の違い
遺贈とよく似た譲渡方法に「死因贈与」がありますが、遺贈で生じる税金とどのような違いがあるのでしょうか。
遺贈と死因贈与の贈与税は同じ
死因贈与とは、生前に「死んだら財産を○○に譲る」と契約を結んでおく譲渡方法のことです。「贈与」というだけに贈与税と考える人も多いと思いますが、遺贈同様に相続税がかかります。
不動産の相続があると税率は異なる
死因贈与の特徴としては、不動産の相続があった際に「不動産取得税」と「登録免許税」の税率が変わることが挙げられます。
不動産取得税 | 登録免許税 | |
---|---|---|
遺贈 | 法定相続人が受遺者及び法定相続人以外が受遺者で包括遺贈の場合・・・非課税 法定相続人以外が受遺者で特定遺贈の場合・・・課税標準額の4.0% |
法定相続人が受遺者の場合・・・固定資産税評価額の1000分の4 法定相続人以外が受遺者の場合・・・固定資産税評価額の1000分の20 |
死因贈与 | 一律に課税標準額の4.0% | 一律に固定資産税評価額の1000分の20 |
*2021年3月31日までに取得した土地、住宅の不動産取得税は3%
遺贈には相続税が多くかかることをしっかりと考慮する
遺贈の大きなメリットは、誰にどの財産を譲るかを自由に指定できる点です。ただし、一般的な相続よりも相続税は多くかかりますので、遺贈の仕組みを理解したうえで利用するようにしましょう。
また、財産を指定する特定遺贈では、受遺者と相続人との間でトラブルになるケースが多く、遺言者の望み通りにならないケースも多々あります。そのため、相続に関して少しでも不明点がある場合は、事前に弁護士へ相談しておくことが安心でしょう。