通帳と電卓と1万円の札束の写真

欧米では一般的におこなわれている遺贈は、高齢化社会へと進む近年の日本でも増加傾向にあります。相続と比べて多彩な選択肢のあるこの方法を使うと、NPO法人などに自身の財産を寄付することも可能となります。
また、財産内容や家族の状況に合った遺贈の選択により、相続トラブルの予防につながるケースも少なくない実情があるようです。そこで今回は、いま注目を集めている遺贈について、わかりやすく解説していきます。

間違えやすい遺贈と相続の違い

遺贈とは、遺言により特定の人に無償で財産を譲ることです。
この仕組みにおいて財産を渡す人を、遺贈者と呼びます。一方で財産を受け取る人は、受遺者と呼ばれる形です。一般的に混同されやすい相続と遺贈には、次の2つの相違点があります。

  • 財産を受け取る人の違い
  • 税金の違い

まず遺産相続で財産を受け取れるのは、配偶者や子、孫、直系尊属、兄弟姉妹といった法定相続人だけとなります。
一方で遺贈の場合は、親しい友人やお世話になった人、寄付をしたいNPO法人といった家族関係や血のつながりのない相手にも、財産を与えられる特徴があります。
しかしながら、遺贈をした場合、法定相続人にかかる相続税の1.2倍を支払うこととなったり、例外を除き基礎控除の対象外になるといった、税金面での注意点がいくつか出てきます。

包括遺贈と特定遺贈のメリット・デメリット

遺贈には、包括遺贈と特定遺贈という2つの種類があります。
財産を与える相手と割合を指定する包括遺贈には、財産構成が変化したときにスムーズに対応できるメリットがあります。そのため例えば、遺贈者が亡くなる前に遺言に書かれていた家を手放してしまったときにも、記載内容の手直しをすることなく一定割合の財産を特定の相手に残すことができるのです。
一方で包括遺贈には、受遺者が相続人と同じように権利だけでなく義務も負うデメリットもあります。したがって、遺贈者にマイナスの財産である借金や債務があるときには注意が必要です。

続いて特定遺贈は、「〇〇銀行の預貯金を次男の妻に遺贈する」といった形で、与える相手と財産を具体的に指定できる方法です。
何を誰に与えるのかを遺言書内で明確にする特定遺贈には、借金などのマイナス財産を引き継がず、相続人との間に揉め事も起こりにくいメリットがあります。これに対してデメリットは、財産構成の変化に弱く、遺贈者が亡くなるまでに定期的な遺言内容のチェックが必要となることです。

遺贈内容が不動産の場合は注意が必要

家の模型と電卓の写真

遺贈内容に土地や家などの不動産が書かれていた場合、受遺者はまず他の法定相続人と共同で、所有権移転の登記申請をおこなう必要があります。したがって、指定された相続人が単独で登記申請を進められる相続と比べて、不動産の遺贈にはかなり多くの手間と時間がかかる可能性があるのです。

次に、包括遺贈で農地を取得する受遺者が農業従事者ではない場合、農地法による知事または農業委員会の許可が下りず登記ができないケースも少なからず見受けられます。
また、借家権や借地権の遺贈においても賃貸人の承認が必要となってくることから、不動産の遺贈をする場合は、普通の相続と比べて手続きがスムーズに進まないリスクや制約があると捉えてください。

遺贈されたものを放棄したい場合

まず、プラスとマイナスの財産を受け取る義務の生じる包括遺贈の場合、放棄の申述は相続放棄と同じように家庭裁判所でおこないます。
この手続き時には、次のような書類や費用の準備をする必要があります。

  • 包括遺贈放棄の申述書
  • 遺言者の戸籍附票または住民票除票
  • 申述人の戸籍謄本
  • 連絡用の切手
  • 収入印紙

ちなみに包括遺贈の放棄には、相続放棄と同様に「包括遺贈のあった事実を知った日から3ヶ月以内」という期限が設定されています。したがって借金や債務のある遺贈者から包括遺贈をされたときには、期限をしっかり意識した上で、なるべく早めに放棄するかどうかの判断をしてください。

続いて特定遺贈の放棄では、家庭裁判所への申述は不要です。
そのため、こちらのパターンで放棄をおこなう人は、遺言執行者や他の相続人に対して内容証明郵便などを使い、放棄の意思をきちんと伝えてください。
また特定遺贈には、包括遺贈と違って放棄の期限はありません。しかしながら相続が確定すると、他の相続人や債権者などから承認したと判断される可能性も出てきますので、どちらの遺贈であっても早めの意思表示をすることがトラブル防止につながると捉えてください。

遺贈の特性を理解し、財産を残しましょう

法定相続人ではない第三者にも財産を残せる遺贈は、身寄りのない方や財産を寄付したい方には適した非常に便利な仕組みです。
しかしながら前述のとおり、遺贈内容や相続人の主張によっては登記手続きが進まないなどのトラブルになる可能性もあります。したがって何らかの財産の遺贈をするときには、遺贈者・受遺者ともにその特性をしっかり理解した上で、遺言書作成などの作業を慎重に進める必要があると捉えてください。