石川真紀さん

石川真紀(いしかわまき)さん

1971年青森県青森市生まれ。東京で働いていた2009年に、突然ME(筋痛性脳脊髄)/CFS(慢性疲労症候群)を発症し、ほぼ寝たきりになり青森へ帰郷。2011年から講演会の開催や疾患啓発活動を始める。2014年からは、患者・家族、医療・福祉の専門職、支援者で構成するCFS(慢性疲労症候群)支援ネットワークを主宰し、活動を全国に広げている。

私は東京で働いていた2009年、37歳の時に突然ME/CFSを発症し、1か月も経たないうちにほぼ寝たきりの状態に陥りました。37.5~38度の熱、悪寒や関節痛などインフルエンザのような症状が続き、仕事を休んで休息しても良くならず、体調はむしろ悪くなるばかりでした。出勤することはもちろんのこと、自分の身の回りのこともできなくなり、人生が一変しました。

ME/CFSは病因不明で、確立された治療法のない難治性疾患です。2014年の厚生労働省の調査によると、患者の71%は、働くことができず、30%が外出困難または寝たきりで介助が必要ですが、指定難病ではありません。患者数は10~30万人(人口の0.1~0.3%)と推計されていますが、医療関係者の間でも疾患としての認知度が極めて低く、診断まで10年以上を要する患者も少なくありません。アメリカの研究データでは、罹患者の最大91%が、未診断または誤診されているとされていますが、日本でも同様だろうと感じています。

幸いにも、私は1つ目の病院でME/CFSの可能性が濃厚と診断されましたが、この病気には治療薬はなく、症状を緩和させる対症療法しかありません。全国に10か所ほどしかない専門外来はどこもパンク状態で、予約は5か月待ちでした。

体力も脳のスタミナも不足しているなか、必死に生きる道を探し、病院、医療相談機関、市役所、年金事務所など、アクセスしたあらゆるところで「その病名は知らない、対応できない、対象外」と言われまさに八方塞がりでした。医療も福祉も受けられない難民でした。私だけじゃない、同病のみんなが同じ思いをしている。その環境を変えるために講演会を開くなどしましたが、体力も脳機能も病前に比べたら5%程度しかない体で活動を継続することは困難で、団体をつくる決心はなかなかつきませんでした。一緒に取り組みたいという全国の同病者の声に背中を押され、多くの方のご協力の元にCFS(慢性疲労症候群)支援ネットワークを発足したのが2014年です。一人で活動を始めてから、今年でちょうど10年。仲間とともに、講演会や啓発活動を全国展開できるようになったことに感謝しています。すべてを失い社会から取り残されたように感じていましたが、病前には知り合う機会のなかった人たちとの出会いがあり、気づけば私の世界は広がっていました。

2021年4月には、病気の解説や医療機関リスト、公的支援制度について網羅した『ME/CFS療養生活の手引き』を1万部発行し、患者や全国の難病相談支援センター等の関係機関に無料配布しました。この冊子が相談支援の一助となり、一人でも多くの患者に支援の手が届くことを願っています。

ME/CFSは、些細な行動の後に急激に悪化します。体を動かすことだけではなく、読書、文章を書く、映像を見る、などの頭脳労働・知的作業にも支障があります。このME/CFSに特徴的な認知機能障害・ブレインフォグ(脳の霧)は、新型コロナ後遺症(Long COVID)にも見られることで、注目を集めています。COVID-19罹患者の10~60%が、急性期を過ぎてもさまざまな症候が改善せず‘Long COVID’という呼称で問題になりつつあります。 ‘Long COVID’患者の約10%がME/CFSに進行すると想定すると、今後8万人を越えるME/CFS患者への対応が求められる事態が予想され、ME/CFSの研究・教育・診療・社会的啓発活動の重要性は今後さらに高まると思われます。これ以上、患者が取り残されないよう、疾患の正しい情報提供や医療体制の充実について国として取り組んでいただけるよう要望を続けていきます。

「新ノーマライゼーション」2021年10月号「ひと~マイライフ」より転載