小澤彩果さんが本の形のベンチで読書している写真

小澤彩果(おざわあやか)さん

DAISY利用者の第1期生。DAISY教科書は、小学5年生の時から使い始める。その後中学生、高校生にかけては、DAISYに関連したNPOや企業の開発プロジェクトで、当事者としてモニターを務めた。現在、立命館大学大学院生。DAISYとICTツールを利用して学習している。今春から、JICA知識交換プロプラムに啓発担当専門者として参加。令和元年9月11日の毎日新聞全国版朝刊のオピニオン「記者の目」欄でコメントが掲載された。

次の文章を実際に声に出して読んでみてください。

疑似体験の文章

ディスレクシア(読字障害)の感覚を疑似体験していただけたでしょうか。ディスレクシアの人もそれぞれ見え方は違います。私はひらがなが苦手で、意味のまとまりで取るのが難しい。普通の人はどんなふうに見えているかは分からないので、自分がどのように人と違って見えているかは正確には分かりません。

私は、小学生2年生の春休みに、ディスレクシアと診断されました。最初に気づいたのは両親で、2年生の夏休みは読みの特訓。泣きながら読みの特訓をしましたが、いっこうに読めるようにはなりませんでした。でもその時、私はひらがなが苦手なこと、「ち」と「さ」をよく間違えることなど指摘されてようやく気づくことができました。

小学校3年生から6年生まで、大阪医科大学LDセンターに隔週で通うことになりました。LDセンターでは、「できることを伸ばし、できないところをカバーする訓練」をしました。具体的には、間違い探しや4コマ漫画の物語の作成でしたが、そうした訓練は良かったと思います。

DAISYとの出会いは小学校5年生の冬。文字のハイライトと音との連動はとても助けになり、教科書の内容も良く理解できるようになりました。以前は、テストの時も裏面までは解答できない状態でしたが、DAISY教科書で読みのトレーニングを開始すると、国語のテストで初めて100点を取ることができました。それには、両親も驚き、もちろん、自信にもつながり、その後、漢検や英検にも挑戦する勇気を持つことができました。

中学校でも、DAISY教科書を(公財)日本障害者リハビリテーション協会に提供してもらいました。中学校側からは特段の支援はなく、みんなと同じ学校生活を送りました。試験では、相変わらずつらい思いが続きました。しかし高校に入学すると、大学センター入試での配慮をにらんで、定期テストで用紙拡大、時間延長、別室受験などの特別配慮がされるようになりました。そのおかげで成績はアップし、その後、特別入試で現在通う大学に現役で合格、大学院まで進学することができました。大学での支援は、定期試験に関しては、PC読み上げ、別室という配慮を受け、授業に関しては、課題はできるだけデータで提供されています。

近眼や遠視になれば誰しもメガネをかけるように、ディスレクシアの人にとって、メガネは、DAISYなどICTインフラ、教育環境(親の姿勢、教師の姿勢やスキルなど)、そして社会政策を組み合わせた生活環境全体に相当します。読みに困難を抱える子どもたちが、こうした生活環境が保障される社会の実現を切に望みます。

私は、勉強が思うようにできずにいる読みが困難な子どもたちに「勉強って楽しい」と思ってもらえる環境をICTをツールとして整えるサポートをしたい。そんな思いで、今、情報理工学研究科でプログラミングとデータ分析手法を勉強しています。

「新ノーマライゼーション」2019年12月号「ひと~マイライフ」より転載