病院と救急車の写真

50代半ばで仕事も忙しく残業続きで頭も使い、事務作業に追われる毎日を送っていたある日、職場で突然倒れて救急搬送されました。自分ではその時の記憶はほとんどなく、ただ病院のベッドの上にいる自分に気づき愕然としたものです。そこで判明した病名は脳卒中でした。

数日はただただ安静に過ごすこと、もちろん自分で動くことができないので、安静にするしかないのですが、現実を突きつけられているようでとても辛かったです。しかも初めての入院でしたので、現実を受け入れることがなかなかできませんでした。

一週間後に医師から、発見が早くて良かったと言われ、手術をすることなくリハビリに励んだら回復が見込めるという診断を受け、回復期の病院に転院することになりました。

この段階では言葉もまともに話せず、体も自分の意志で動かすことができませんでした。ただ命が助かって良かっと思えるぐらい自分にとっては辛い状況でしたが、リハビリをすれば回復しますという医師の言葉を信じ転院しました。

この時はこれからリハビリに励み頑張れば、きっとすぐに社会復帰できると思っていました。しかし、毎日何時間もリハビリをしても、思うように結果が出なくて焦る毎日。体は自由に動かないし、言葉もスムーズに出てこない、自分が自分でないような感覚がもどかしく、このやり場のない気持ちを誰かにわかって欲しいと思うものの、それすらも伝えられない自分が情けなくてたまりませんでした。

塞ぎ込む日が続き、本当に回復できるのだろうか、いや、頑張りが足りないだけで頑張ればきっと元どおりになるのではないかという葛藤の中、リハビリ指導をしてくださる作業療法士の方や理学療法士の方に当たってしまうこともありました。うまく言葉も出ないこともあったので、態度が極めて悪かったと今になれば反省することばかりです。

こちらの病院ではリハビリの時間だけではなく、できるだけ体を動かすようにと言われていましたので、はじめは歩行器を使って、売店まで買い物に行ったり、お見舞いに来てくれた知人と面会スペースまで移動したりしていました。そんな私の姿を見て、看護師や看護助手、リハビリのスタッフの方々が励ましてくださいました。それがどれだけ心の支えになったか、今から振り返ると感謝しかありません。

体の不自由さだけではなく、思うように喋れないことがこんなに辛いとは思いもしませんでした。筆談をしようものにも、字がうまく書けないのですから。50音が並んだボードを指差して、伝えることも妙にプライドが邪魔して、素直に受け入れられなかったのも事実です。病気になり自分の内面と向き合う作業をしなければならなくて、今まで見てこなかった自分を見つめ直す時間が続きました。

退院して自宅に戻ることを目指していたので、京町家である自宅での生活を思うと気になることがたくさんありました。そのようなことにも病院の相談員さんが相談に乗ってくださり、脳卒中の後遺症の場合は介護認定が受けられて、自宅を改修する場合に補助金が受けられることもわかり、入院中に介護認定の手続きを進めることができました。

1日1日が長く、結果がなかなか出ないリハビリに嫌気が差すこともありましたが、それでも自分なりに頑張って4ヶ月が過ぎようとしていた日に、医師からそろそろ退院も視野に入れましょうと言われました。嬉しい気持ちとこの状態で自宅に戻って生活ができるのかという気持ちが行ったり来たりしました。それでも退院できると思うと嬉しさを隠せませんでした。

転院してから130日で退院することになりました。理学療法士さん、作業療法士さん、言語療法士さんとお別れすることに寂しさと不安が入り交じり、嬉しい退院のはずが少しセンチになりました。無事、自宅に戻り家族が用意してくれた背もたれが電動で動くベッドに横になった時、嬉しくて涙が頬をつたいました。

自宅に戻り、自分に課したことがあります。規則正しい生活をすること、朝起きて顔を洗い、服を着替えることです。社会復帰には程遠い状態ですが、いつでも職場に復帰できるように身の回りのことは自分でする、メリハリのある生活をすると決めたのです。

そして、入院していた病院とは違うリハビリ専門のところで通所リハビリという形でお世話になることになりました。自宅に戻って、閉じこもっているとまた悪化しそうに思えたので、通えるところがあるのはとても有難かったです。はじめは家族に付き添ってもらいましたが、数回後からは自分のゆっくりペースで通えるようになりました。それもまたリハビリになったようで、この辺りから不自由さはありながらも元のような生活ができるのではないかと希望がはっきりと見えてきました。

いよいよ、職場復職への光が見えてきました。今、倒れてから7ヶ月が経とうとしていますが、短時間でシフトを組んでもらい、少しずつ仕事を始める相談をしているところです。私の体験談をお読みくださった方が希望を捨てずにリハビリに励まれて、回復されますことを願っています。